久しぶりに東京新聞に載った斉藤美奈子さんの「本音のコラム」を紹介します。
毎週水曜日は文芸評論家の斎藤美奈子さんの担当です。
今朝のタイトルは「ある町の悲劇」。
なにかなーと思い一気に読む。
やっぱり斎藤さんはすごいナーと感心します。
折角なので全文を紹介します。
ある町の悲劇 斎藤美奈子
ときどき火勢が衰えたり、大きく燃えさかったりしながら、もう1年以上にわたって町では火事が続いています。大勢の人が亡くなったり家を失ったりしました。
町の人々は何度も119番通報をしました。しかし、消防車はなかなか来てくれません。仕方なく、人々は自分たちで火を消す努力をしなければなりませんでした。
ようやく鎮火に向いだした頃、到着した消防車は奇妙な行動をとり始めました。火にガソリンを注いだのです。消防所長はいいました。「みなさん、火はもうじき鎮まります。家はそのままにして旅行にでかけましょう」。火は燃え広がってしまいました。
次に消防署長はいいました。「みなさん、もう火事は忘れてスポーツ大会を楽しみましょう」。人々が走ったり泳いだりしている間、火はもっと燃え広がりました。火の中に残された人々は自宅にいるよう命じられ、次々に命を落としました。
うちにはワクチンという強力な消火剤があるから安心だと消防署長はいいました。ですが火の勢いに消火剤は追いついていません。人々はさすがに怒り、消防署長の交代を要求しました。
消防署はいま、次の所長に誰がなるかで揉めています。ニュースも熱狂しています。その間にも火は燃えています。私たちは町が焼け野原になるのを待つしかないのでしょうか。
お読みになっての感想はいかがだったでしょうか。